「この人は、すっごく信じられる!」
読了後の感想は、まさにその一言に尽きました。
「ハライチ」という芸人コンビは以前から知っていましたが、
どちらかと言えば、テレビでよくお見掛けする相方の澤部さんの方に知識の比重が傾いており、 それほどお笑いにも明るくもない私には、申し訳ない事ではありますが、著者である岩井さんは長年謎の人でした。
そんな岩井さんの存在がはっきりしたのは、サンシャイン池崎さんが保護猫を飼い始めたというニュースを見てからでした。
その口添えをしたのが岩井さんだという事を知り、私の中で「ハライチの岩井さんは心優しいいい人。」という図式が勝手に出来上がってしまっていました。
本書はその勝手な思い込みと図式を爽快なまでにドンドンと書き換えていってくれる一冊でした。
岩井さんは、お笑い芸人さんの中では、毒舌家の一人に挙がる方だとは思いますが、そういう方達が纏っている「それでも私は根はいい人なんですよ。」という、まやかしのオーラみたいなものを論破していってるようにも見受けられます。
人は言いたい事を文章にすると、そこに気取りや自衛がどうしても入ってしまって、本音で書いているつもりが、結局は建て前になってしまっている、という言説をどこかで読んだ事がありますが、著者の岩井さんにとっては、そういったポピュリズム的なものさえも煩わしいのかもしれません。
日常で感じた事を淡々とした筆致で書かれているだけのエッセイなのですが、くすりと笑わせてもらった後には、何故かほっこりした気持ちが残りました。
友達や家族、後輩といったごく親しい人と、たった一度接触しただけの人達への視点に温度差がないのも、著者の人柄が出ていおり、そこに信頼を覚えました。
「人間 岩井勇気」を読んで下さい、というには壮大過ぎるし、
「飾り気のない 岩井勇気」というのもどこか空々しい他の人の事の様に感じられます。
この表紙の様な、「裸足にくたったジャージ姿の岩井勇気」を読んで下さい、というのが、本書を薦める一番ピッタリな表現かと思います。
著者:岩井勇気
出版社:新潮社