某テレビ番組の俳句コーナーが大人気となり、ここ数年の俳句ブームを作ったと
言っても過言ではない夏井いつきさん。
本書は俳句の指南書ではなく、夏井さんとその実妹のローゼン千津さんが、食卓
を題材として詠まれた俳句を紹介する一冊です。
食卓といっても様々なシチュエーションがありますので、ここでは「日常の食卓」
「旅の食卓」「大勢で囲む食卓」「祝いの食卓」「思い出の食卓」と大きく5つの
テーマに分け、それらの場面を詠んだ俳句がいくつかピックアップされています。
といっても、ただ俳句を紹介するだけではありません。
紹介された俳句の解説もそこそこに、食べ物談義に花が咲き、そこからお互いの
家族のユーモア溢れるエピソードや、子供の頃の思い出話など、話はさまざまに
展開されていきます。
姉妹ならではの歯に絹着せぬやりとりはとても軽妙で、文面からもその仲睦まじ
い様子が伝わってきます。
また、それぞれの俳句をイメージして描かれたイラストがとても素敵で、絵本を
めくるように楽しむこともできます。
個人的に、特にいいなぁと思ったのが次の二句。
『くず切や心通えばなほ無口』 及川貞
『箸楽ししょっつる鍋の貝ふらふら』 阿波野青畝
夫婦ふたり、言葉はなくとも穏やかに涼やかにくず切を食べる夏の日の食卓と、
冬の寒い日、秋田名物の鍋を囲んでほろ酔い気分の、賑やかで楽しい食卓。
対照的な二つの句ですが、どちらもその情景がありありと目に浮かぶようで、
大変味わい深く堪能させていただきました。
あぁ、おなかすいた。
著 者:夏井 いつき、ローゼン 千津
出版社:ワニブックス