「地産地消」
いつ頃からか耳にするようになった言葉ですが、いいものだとは頭で思い描き
ながらも、日常生活の中でそれを取り入れるとなると、今の時代では中々ハー
ドルが高いように感じていました。
この本の著者は、自分の家の藤棚があまりにも好きすぎて、他の人ともその
「好き」の感覚を分かち合いたいと少女の時に自ら藤の絵を描き、その手作り
の “ふじメモ” を「観光地の特産品」として一つ10円という値段をつけ、隣家
の塀の上で売ったそうです。
偶然、近所の人がそれを発見し、一つだけ売れたそうですが、その時に作り手
と買い手が直に触れ合う事で生じる「縁」の面白さを、肌身で感じ取ったんだ
ろうと思われます。
そういうベースを持った作者が描く直売店のお話は、どのページからもその土
地の風景、日差しやそよぐ風、収穫された物の匂いや味わいなどが感じられ、
まるでそこを作者と一緒に巡っているような錯覚さえも覚える程でした。
紹介されている所は、関東周辺や信州辺りにとどまり、行った事さえない土地
ばかりかお会いした事もない作り手の方達ですが、その方々のお人柄が生産物
への愛情によって滲み出ているような印象を受けました。
50代も終わりを迎えた飽き性の男性が、テレビで見た養蜂の番組がきっかけで
養蜂にのめり込み、これだけは飽きなかったと養蜂家に転身してしまったお話
が面白い程「縁」に支えられており、ためになる事も多く、特に興味を惹かれ
ました。
どの生産者が作られる物も全て美味しそうですが、アーモンド以外なにも入っ
ていない自家焙煎のアーモンド100%のアーモンドバターは、取り寄せてまで
も食べてみたくなりました。
これを読んでいると、近郊の直売所に足を運びたくなってきます。
そして、食べ物だけではなく、生産者との「縁」も楽しんでみたいです。
「地産地消」
「オートメーション」や「流通」で得られるものはなく、作り手との直の「触
れ合い」と「縁」によって本当の意味をなすのではないかという気がしました。
この本によって、難しく考えていたその言葉のハードルが少し低くなりました。
著 者:松本英子
出版社:朝日新聞出版