かつて学校で、誰もが一度は学んだであろう万葉集。
「令和」という元号が発表された時、その出典として注目された万葉集。
とはいえ、日常ではなかなか触れる機会の少ない万葉集。
そしてひと頃は、神戸市の小学校の遠足の定番だった奈良。
阪神なんば線が近鉄奈良駅と繋がって、三宮から乗り換えなしで行けるようになり、
比較的足を伸ばしやすくなった奈良。
とはいえ、大阪や京都ほど気軽に頻繁に行くことのない奈良。
そんな「万葉集」と「奈良」の新たな魅力に気づかせてくれるのが本書です。
奈良に精通した「奈良まほろばソムリエ」の総勢60人ものメンバーが、奈良を11
のエリアに分け、その地を舞台に詠まれたであろう歌について、現地の写真とともに
端的でわかりやすいながらも味わい深く解説されています。
それぞれの歌には、漢字のみで書かれた原文が並んで掲載されており、見比べながら
その意味をなぞるうち、音の響きの美しさに魅せられ、声に出して味わいたくなって
きます。
そこで改めて万葉集の成り立ちが、「もともと声に出して詠んだものが、のちに文字
として遺されたもの」であるということを、身に染みてわかった気がしました。
各エリアごとの詳細な地図もあるため、場所も照らし合わせやすく、かつ各エリアの
最後にはコラムも掲載されており、その地に残る歴史や伝承、人に話したくなるよう
なウンチクなども書かれており、様々な楽しみ方ができます。
加えて巻末には「万葉集の基礎知識」もあり、これを読むだけでも、万葉集のことを
少しわかった気になれます。
人が人を想い、風景にその面影を重ねる──
万葉の歌に触れれば触れるほど、悠久の時を経ても、人の心のあり様は変わらないと
いうことに、深い郷愁の念を覚えました。
これまで寺社巡りや鹿との触れ合い、ならまちの散策にかき氷や柿の葉寿司といった
奈良のベタな楽しみ方しか知らなかった身としては、いつかこの本を手に、遙かなる
万葉の奈良に想いを馳せ、この本の帯に書かれた通りの「滋味豊か」なる奈良の地を
辿ってみたくなりました。
著 者:奈良まほろばソムリエの会
監 修:上野 誠
出版社:京阪奈情報教育出版