「ありのままでいい」
最近よく耳にするようになったフレーズです。
あなたらしく、そのままで、ありのままで。
それが謳われるとき、きっと閉鎖病棟に入院している患者はそこに含まれて
いないのでしょう。
著者は、神戸生まれで阪神淡路大震災も経験した牧師。
仕事として訪れていた閉鎖病棟に、患者として入院することになります。
そこで出会ったのは、半世紀以上、閉鎖病棟に入院している男性や、
「うるさいから」と薬を投与されて眠る青年、
どうして人を傷つけてはいけないのかわからない少年たちでした。
二ヶ月の間、様々な患者と出会った著者は、自分の弱さも驕りも差別意識も
見つめながらこう語ります。
「彼がここに拘束されているから、世のなかは「まともな」人たちだけで
独占していられるのだ。世のなかの「まともさ」を、彼が贖っているのだ。」
と。
閉鎖病棟に入院する彼らは、この社会においては、「ありのまま」生きること
を「許されて」いません。
著者が語る信じられないような体験の数々に、衝撃を受ける方もいるでしょう。
しかし、決して別世界の話ではありません。
ここは、私たちの生活と地続きで、些細なきっかけで、誰でも「入れる」場所
なのです。
本作を読み、その現実を知ることが、世界を立体で見るための初めの一歩だと
思われます。
著 者:沼田 和也
出版社:実業之日本社