「利他」とは何か。
かみくだくと、「他者のために生きる」ということです。
それって自己犠牲ってこと?他者よりも自分のために生きるべきなんじゃない?
正直、私も初めて聞いたときは、ちょっとうさんくさいなあ、と思いました。
「利他」に対してそういったイメージを抱いた人にほど、この一冊は「効き」ます。
「利他」
それは、世界のゆくすえを語る上で欠かせないキーワードです。
世界のゆくすえなんて、自分とは関係ない。
あるいは、大仰な、と構えてしまう方もいるかもしれません。
しかし、今、現在進行形で進むコロナ禍の社会で生きる以上、「利他」と無関係
でいられる人はいないのです。
グローバル化が進む今、自らの行いが否応なく他者に影響を与え、他者の行いも
また、自らに影響を及ぼします。
私たちは地球をシェアしているからこそ、今、パンデミックが起こっているとも
言えるわけです。
「他者のために生きる」ことを考えなくては、未来はありません。
日本には昔から、「情けは人の為ならず」ということわざがありますが、これは
厳密には「利他」ではありません。
めぐりめぐって良いことが自分に返ってくることを期待した時点で、それは
「利己」的な行いになります。
「利他」のミソは、「自分の行為の結果をコントロールできない」ところにある。
この結果の不確実性が、利他を利他たらしめているのです。
また、「身内にガン患者がいたから、ガンの支援団体に寄付する」という、一見
美しく、筋が通っているようにも思える「共感の利他」は、危うい。
「共感できないものは、切って捨ててもよい」「共感を得られなければ助けても
らえない」という考えと、表裏一体だからです。
では、共感によらない効果的な利他とは何か。
本書ではその効果性についても触れています。
どうでしょうか。「利他」への警戒はすこしとけてきたでしょうか。
一口で、「他者のために生きる」と言っても、そのとらえ方、在り方は様々です。
本書では、美学者、政治学者、批評家、哲学者、小説家の五人が、 それぞれの
視座から「利他」について紐解きを試みています。
今を読み解く、そして危機を乗り越えるための「利他」を、あなたの中にもイン
ストールしてみませんか?
著 者:伊藤亜紗、中島岳志、若松英輔、國分功一郎、磯崎憲一郎
出版社:集英社