政治家の失言や企業広告の炎上。
「自覚なき不適切発言」が取りざたされ、失脚や謝罪につながる姿。
そういった姿を見かけるたび、「自分はしない」「思わない」と、どこか他人事の
ように捉えてはいないでしょうか。
あるいは、「これは偏見ではなく、事実だ」とも。
本書は、そのような無意識に潜む偏見、「アンコンシャスバイアス」を炙り出し、
ときほぐしていくような一冊となっています。
例えば、「女性は理数科目が不得意」という言説。
「実際そう思うし、周りの女性を見てもそう」と感じる方もいるかもしれません。
しかし、スウェーデンやノルウェー、アイスランドなど、ジェンダー格差が小さい
北欧諸国では、女子の成績が男子の成績を上回っているというデータが出ています。
また、ジェンダー平等が進んでいない国のほうが成績の性差が大きい、という研究
結果も本書では紹介されています。
このことが示すのは、生まれながらの性別で成績や得意科目が決まるのではなく、
その国においてどれだけ男女同等の教育がなされてきたかが根底にあるということ
です。
差別や偏見は、社会構造が生み出すものとも言えるでしょう。
その構造をもった社会で生きているかぎり、日常に潜む偏見に自力で気づくのは難
しいかもしれません。
「外科医」と聞くと、男性を思い浮かべる。
「フルート奏者」と聞くと、女性を思い浮かべる。
「単身赴任中」と聞くと、父親を思い浮かべる。
職業から、はては楽器まで、気づいていないだけで、偏見や決めつけは、潜在意識
に刷り込まれています。
「自分は差別をしない」「偏見など持っていない」と“思い込む”のではなく、知り、
学び、自分の中の差別心や偏見を認めていくことが、互いを尊重し合える社会への
一歩ではないでしょうか。
著 者:北村英哉
出版社:河出書房新社