本書は、「一生モノの課題図書」と名付けられ、大ヒットした『ぼくはイエローでホ
ワイトで、ちょっとブルー』の続編になります。
前作では、元底辺中学校に通い始めて、いきなり人種差別という理不尽な洗礼を受け
てしまった12歳の「ぼく」から話は始まりますが、人種も貧富の差もごちゃまぜで、
それゆえに生じるいじめや格差に、ある時は悩み、落ち込みながらも、トラック運転
手の父ちゃんやパンクな日本人の母ちゃんに心情を吐露し、疑問を投げつける事で、
乗り越えていく姿を見せてくれました。
そんな「ぼく」の1年後の姿が描かれています。
「1年でそんなにも変わるものなのかな?」とも思いましたが、その1年で英国も変
化し、様々に起こる社会問題のうねりがこの親子が暮らす地域や「ぼく」が通う学校
にも押し寄せていき、13歳にして否が応でもその渦中に巻き込まれていきます。
前作では、両親に答えを委ねていた感がありましたが、本書では自分なりに答えを見
つけ出し、場合によっては社会に対して諦めている母ちゃんを諭すような頼もしさも
見せてくれています。
1年でどう「ぼく」が変化していったのか。
両親や友達や地域とのリレーションシップや、学校の教員たちや授業からインスパイ
アされた「多様性」が縦糸となり、そこから生まれる「エンパシー」が横糸となって、
紡ぎ出された形が成長として現れたように思います。
「多様性は楽じゃないけど、楽ばかりしていると無知になるから。」
とは、著者である母ちゃんが前作で言った言葉ですが、その言葉の通り、多様性を受
け入れた「ぼく」は自ら考え、行動し、他者を思いやれる事が出来る大人になってい
ました。
国の財政難による緊縮政策で袋叩きにされ生活はきつくなる一方ですが、それにより
精神力の強さや智慧という武器を身に着けていく英国の人々。
終身雇用の神話がまだ根づいており、公務員を目指している国民と、将来自分で企業
を立ち上げる為にビジネスの授業を中学生から受けている国民。
豊かさの意味を、本書の「ぼく」の目線から学ばせてもらえたような気がします。
著 者:ブレイディみかこ
出版社:新潮社