「傘のさし方がわからない…?」
「さす事が、出来る、出来ない」ではなく、「わからない」という、
およそ傘には続かないであろう動詞の選択肢にまず興味をそそられ、読み進めていきました。
その「?」は、序文で「そうなのか!」と納得したところで、ふと、このタイトルの言葉のチョイスが本文を要約する根幹になっているように思えてきました。
大ヒットした『家族だから愛したんじゃなくて 愛したのが家族だった』を著された岸田奈美さんによる、その続編となる本書ですが、前作同様に、“物事には多様な側面”があるという事を気づかせてくれる語りになっています。
神戸出身の著者には、病気が原因で車椅子ユーザーになった母親と、ダウン症の弟がおり、大黒柱だった父親は著者が中学生の時に他界しています。
その側面だけ見れば、「大変ですね。」「お辛いですね。」「お姉さんは立派ですね。」という言葉を投げかけたくなるかもしれません。
しかし、「人情」の衣を纏わらせたそれらの常套句には、
他の面を見る事への拒絶と、「私たちとは違う」という差別意識が内包されています。
そのような、何千という「人情」の言葉を浴びてきた著者は、そういった差別意識を「思い込み」と呼びます。
「思い込み」は、物事には多様な側面があり、多様な考え方や感じ方がある、というイマジネーションを封じ込めてしまう。
本書は、その様な「思い込み」をしている人達にこそ、是非手に取って読んでもらいたいと思います。
そうすれば、ユーモア溢れる岸田一家に爆笑して、他人や自分自身への思い込みを払拭できるのではないでしょうか。
豊かさの芯について、著者は、
「好きなことをして、好きな人と、好きに生きる」と仰っています。
「好き」がある事が豊かさなんだ、と教えてくれています。
なるほど。だから著者は多面を見られる豊かさを持たれているのか、と納得しました。
最後に。
ページ数を表すノンブルは、前作同様に弟さんの手によるものです。
一冊丸ごとが岸田家だと言っても過言ではないでしょう。
著者:岸田奈美
出版社:小学館