この本の著者は、1976年生まれの韓国人脚本家のハン・ソルヒさんという女性です。
文化や言語、風習は違えど、「あたしだけ何も起こらない」という、えも言われぬ
思いを日々抱えながら過ごす人たちは、この世界のどこかしこに、きっとたくさん
いるはずです。
近年では、エイジレスやジェンダーレスといった言葉が広く浸透し、年齢や性別を
意識しない社会に徐々にシフトしつつあります。
結婚についてもその有りようは様々になり、幸せのカタチはそれぞれ異なり、また
それが認められる世の中に変わってきました。
とはいえ、ある一定の年齢を迎えた女性が感じざるを得ない葛藤のようなものは、
今なお確かに存在していると言えるのではないでしょうか。
日常の中に転がっている、ちょっとした違和感の数々がどうしてもやり過ごせなく
なってきて、友達や先輩後輩との会話では、焦りやショックを感じたり、傷つけた
り傷つけられたり。
食事を抜いても痩せない、毛穴の広がりが気になる、少し前に着ていたお気に入り
の服がなんだか似合わない、たくさん寝ても疲れが抜けない、記憶力があり得ない
ほど低下している、結婚している友達と話が合わず疎遠になる、親の老いが目につ
き始める・・
本書の中で繰り広げられるそんなやり取りの数々は、あまりにもざっくばらんで正
直で、くすっと笑わされたかと思えば冷静にツッコんでしまったり、はたまた胸に
刺さる言葉もあったり。
時に酒を浴びやさぐれつつも、どうにかこうにか前に進もうとする著者の姿は、
なかば開き直りのようでもあり、でもどこかイタイケでかわいらしくもあります。
結婚している、していないに関わらず、またたとえ何歳であっても、その不器用
ながらも前向きな姿には、どこかしら共感を覚えたり、周りにいる誰かと重なり
思いを巡らせることもあるかもしれません。
読後には「あたしだけ何も起こらない」と思いながら過ごす日々も、それなりに
楽しく有意義で、こんな毎日の繰り返しも悪くないかもしれない、そんな風に思
えてきました。
そして、そんなポジティブマインドでいれば、「あたしだけ何も起こらない」と
いうあなたや私にも、きっとそのうち、何かいいことが起こるかもしれません。
著 者:ハン・ソルヒ イラスト:オ・ジヘ 翻 訳:藤田 麗子
出版社:キネマ旬報社