最初に本書を手に取ったときには思いもよらないことでしたが、まず読んで驚いたの
は「自分が方向音痴である」という事実に気づかされたことでした。
本書は、自他ともに認めるれっきとした方向音痴の著者が、どうにか方向音痴を克服
すべく、「脳」「地図」「地形」「地名」の観点から原因と対策を探り、試行錯誤を
繰り返す様子を、真剣かつコミカルに記されたものです。
著者の吉玉さんは、本書の中で、思わず声を出して笑ってしまうほど見事なまでの方
向音痴っぷりを披露されているのですが、読み進めるうちだんだんと自分にも思い当
たる節が多くなっていき、ついに自分が吉玉さんを笑える立場ではないと悟ってから
は、ぜひ参考にするべく懸命に読ませていただくこととなりました。
「地図を回さないと方向がわからない」
「東西南北ではなく、上下左右で言ってほしい」
「初めての土地では、1歩目は当てずっぽうで歩き始める」
…などなど、方向音痴の方にとっては、おそらくそれは日常の「あるある」でしか
ないのですが、方向音痴でない方には、めっぽう不思議な現象なのかもしれません。
そんな吉玉さんの不思議な現象(?)を聞いた各分野の専門家の方々が、的確で具体
的な提言・助言をされるのですが、実際に街歩きしながらそれらを実践していくうち
徐々に成長してゆく吉玉さんの姿には、感動すら覚えます。
ただ、本書の中に出てくる街が、著者の住む東京や、実家のある札幌ということで、
関西人にはあまり馴染みのない土地であるため、方向音痴の方はもしかしたら読みな
がら途中で「何が何やら…?」となる可能性もありますが、街の写真がスポット的に
入っていたり、足跡を辿った地図も載せられているので、どうにか迷子にはならずに
済むはずです。
方向音痴の方ならば「あるある」に共感しつつ、どの方法にどんな効果があるか大変
わかりやすく、すぐにでも自分に合った実践法を取り入れることができますし、知ら
ない街を歩くことへの不安や抵抗も軽減できるのではないでしょうか。
また方向音痴でない方でも、地形や地名など、いろんな角度から街を見る新鮮さを感
じられ、笑いながら方向音痴の方の気持ちを少しは理解していただけると思います。
「方向音痴」が大きなテーマではありますが、それ以上に、これまでとはひと味違う
地図や道の見方・歩き方を知り、街を歩くことの楽しさを教えてくれる、そんな一冊
です。
著 者:吉玉 サキ
出版社:交通新聞社