ピアノ調律師との出会いをきっかけに調律の道へと進む若者の姿を描いた、2016年の本屋大賞受賞作です。
2017年の受賞作は、ピアニストを描いた恩田陸作の「蜜蜂と遠雷」、奇しくも音楽をテーマにした作品が続きました。
どちらも音楽に向かう若者の真摯な姿勢を描いた作品ですが、静かな森の香りに包まれるような本作は、ピアニストたちの葛藤が押し寄せる「蜜蜂と遠雷」とは正反対に見えます。
文中、小説家の原民喜が憧れていた文体とは、という記述があります。
読むにつれ森の香りを増し、読んだ後は何か温かいもので心を満たされる宮下氏の文体こそが、それにあてはまるのではないかと思いました。
著者:宮下奈都
出版社:文藝春秋